tayutauao

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7月28日、september

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通院している病院の待合室で

「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読みながら、

わたしも恋を、思い出をこころに温める。

懐かしい痛み。愛しい記憶。

 

そういえば今日、昔の恋人はフジロックに行っている。

いつか行こうね、と言っていたのは遥か昔。

きっと今の恋人と行くんだろうな、

つまんないな、なんて思いながら

ビョーク見てきて、と言ったら

くるりも見れる、と返ってきた。

心が少し浮いたのは、今だって覚えているから。

そう、くるりの「ばらの花」は別れる時に

わたしが彼に送った曲だったから。

ー安心な僕らは旅に出ようぜ

ー思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

雨の降る日の夜に、車の中で歌ったフレーズにきみが

「おれたちのことみたい」ってはしゃいでいたことを覚えてる。

 

そして楽しそうな彼と対照的に

鬱と風邪と生理と帯状疱疹で死にそうなわたし。

 

「あなたもなかなか克服できないね」

「鬱な気持ちはいつかなくなるよ」

その言葉に、少し泣き笑いをした。

きみだってわたしと付き合っていた頃、

ひどく死にたがりだったじゃないか。

ーおれの嫌いなところを3つ教えてー

というのが切実なお決まりの口癖だったじゃないか。

 

この世でいちばんだったわたしたち。

この上ないほどの幸福を感じていた。

この間、彼が言った。

「なにもないこと」が俺たちのしあわせだったと。

わたしもそう思う。そしてゆっくりと付け足す。

まるで空っぽなしあわせとふしあわせだったと。

 

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「おれはもうあまり思わなくなってしまった」

ー何を?

と聞きかけて想った。寂しくなった。

死を。生を。からっぽを。だね。きっと。

ーそれがあなたの美しさでもあったのにね。わたしがちゃんと留めておくよ。

 

このままなんとなく結婚して、

なんとなく家庭を持って生きてくんだろうなと言っていたな。

今は、80点のしあわせで生きている君。

今も、100点のしあわせを諦めきれないわたし。

 

今は分かれてしまった道の上で

二人編み直そうと誓った関係性の糸は

どんな色をしているのだろう

どんな柔らかさでここに在るのだろう

いつかそれをまとってきみの前に現れたい。

 

 

 

 

 

 

 

7月25日、カブトムシ

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こんばんは。

今年も驚くほど、暑い。

ジャックピアソンの撮ったスイカの写真がどうにもエロくって

わざと音を立てて、手指から水滴を滴らせて、それをむさぼるように食べてみる。

あと1ヶ月したらまたひとつ歳をとる。

「死」という名の「生の完成」が近づいてくる。

毎年、毎年、どんな風に夏を形容してきたのだろ、わたし。

 

深呼吸をして思ってみる。

悔しいくらいにどこにも行けなくて、

愛おしいほど、どこかからきみが、あなたがやってくる季節。

心だけはどこにでも行けて

恋の数だけ星がよく見えるようになったと錯覚をする。

 

 

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夏が来る前に出会ったら

秋が来る頃にはさようなら

そんな風にして生きてきた

切なさを吸い込んだ体がこんなにも愛おしい

 

隣で眠る君の生の匂いと少し汗ばんだベッドと布団

空には分厚い雲がかかってわたしはなんだか泣きそうでした。

 

朝、きのうの夜にきみがクシャクシャに乾かした髪が

起きたらストン、と落ち着いてしまっていたのでわたしは少し泣きました。

 

月には水の痕跡があって

けれどもわたしにはなんにもない

きみには水の存在があって

けれどもわたしは見るからに空っぽだ

きみが柔らかく噛んだ肌に

ひっそりと痛みがうずくまっているだけ。

 

 

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抱きしめると君はわたしのものではないと

心から分かってしまうから

わたしはなんだか安心に似た気持ちを覚えます

 

どんな風に生きてきたんだろうって

そんなことも知らないで見つめてくれてありがとう

そんなバカみたいな正直さで優しくしてくれてありがとう

その目だけが生きているきみの本当だ

 

 

 

 

 

 

 

7月13日、夜に失くす

 

夜が来るのがこわいという感覚は久しぶりだった

それはきっとこれからやってくる季節があまりにも生々しいから。

立ちのぼってくる土の匂いとか、風に揺れる草の匂いがふんだんに混じった

湿度のこもった、さながら水みたいな空気が柔らかくわたしの喉を刺す。

 

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きみを間違えないようにそっとその名前を携帯で確かめるみたいなうしろめたさ

うしろめたさはいつも心の片隅にいて、そんなものがわたしを均している。

 

のぼってくる朝の光とともに煙草を何本か吸った。

きみはまだ真っ白で清潔な布団の中に潜り込んでいる

それはまるで未来を見ているかのようで

わたしには朝日よりもきみが眩しかった

 

撮ったものがきみを、わたしを、当たり前に肯定するから

愚かだとしても、それだけで生きていけるような気持ちになる。

ただしさとかまちがいを盾にして生きてはいけない体に生まれて

その愚かさが、切なく、甘いシロップみたいにそこかしこにしみわたる。

 

きみがうつくしいのは

世界がうつくしいのと同義だ

 

わたしが愚かなのは

世界が愚かなのとよく似ている

 

せめて、すべて許せますように、と

枕元の聖母に祈る朝。

 

 

 

 

 

 

 

7月7日、さよならミッドナイト

 

「どうして人は思いを伝えるんだろう」

「どうして人は思いを伝えないんだろう」

 

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日付が変わって今日は七夕らしいけれど

織姫も彦星も毎年雲の中で会う約束をしている

わたしはホッと笑みを浮かべる

恋人たちが会うのは夜の帳の中がいいし

ましてや年に1度のデートを見られるのはきっと嫌だから

 

彼はやってきた

細い体に不似合いな大きなリュックを背負って

その肩口を両手で支えながら

ひょうひょうと風をきるようにして

 

お久しぶりです、と遠慮がちにつぶやいた彼に

わたしはおかえりといい、彼に習って

ひょうひょうと歩くことにした。

煙草を1本もらって歩く。

気持ちのいい歩き方を知っているなと思った。

 

家は片付いておらず、しかしわたしの生活感は

彼に安心感を与えていると感じた。

お酒と睡眠剤を飲むのが癖になったわたしに

それっていいんですか、と聞く彼に苦笑いをして

わたしは歯磨きのために洗面所に向かう。

 

「僕、下で寝ますね」

「いいよ、うちのベッド広いから上で寝なよ」

「じゃあお邪魔します。ありがとう」

もぞもぞと布団に潜り込んできた彼は

普段は猫背で分からなかったけれど背が大きくて

きちんと男の子の体をしていた。

触りはしなくてもそんなことはわかった。

セミダブルのベッドは広く、

私たちは触れ合うことなく眠りにつくことができそうだったけれど

私の睡眠剤は効かず、彼はずっと音楽を流していた。

たんじゅんなメロディ、かんたんなメロディのその歌を

前に海にいった時の朝方にも彼は流していて

それは私も大好きな歌だった。

 

 

テーブルの上に 缶ビールとコンドーム

隣で眠ってる僕の恋人

僕は行くよって さよならミッドナイト

もうすぐ最後の夜が明ける

 

 

 

夜が更けていく。

いつの間にか距離が近くなった私たちは

やはり眠ることができなかった。

真夜中2時の煙草

真夜中3時のアイスクリーム

そういうなんでもないことが幸せだと感じた

音楽が流れている

外は涼しいけれど湿度が高く

水の中でそっと蓋をして生きる貝のような気持ちだった

 

 

目を覚ましたら 離れ離れさ

 

何も言えなかった 何も言わなかった

 

 

それはもう確信をついているようで

でもやわらかだった

 

伝える思いと伝えない思いがあって

けれどそんなことを口に出さずとも

伝わる何かもある

彼はわたしにそれを教えてくれる

その居心地の良さも、余白も、

そういう風にして編まれていく関係性も

わたしが彼を好ましく思うのはそういう理由だった

 

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いつの間にか朝になって私たちは寝坊した

急いで支度をして急ぎ足で彼を見送る

ありがとう、と手をひらひらさせて

彼はホームに吸い込まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

6月16日、ラストデイ

わたしの目の前にきみがいる。

きみは、あたりまえじゃんって笑うかもしれないけど

目の前にいるきみは、目の前にしかいない。

きみの存在のすぐ隣には、きみの不在が横たわる。

 

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世界を見渡してみる。

どうしたって、いつだって、

「きみがいること」と「きみがいないこと」は

切り離せないことなのだとおもう。

 

 

「余白」

 

 

きみ

せかい

わたし

 

繋ぐ「のりしろ」

 

 

目の前にきみがいること

それはそれ以外の空間に、

いつもきみがいないことを知る装置だ。

 

わたしってば、きみが在るよりも

きみのいない空間のほうが世界には

たくさんあるって知っている。

 

在ることだけが明らかだ。

ふれたら確かめることだ。

 

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なのにわたしときたら

目の前にいないきみを

たしかめるよりもずっと

余りにも信じすぎている。