tayutauao

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7月12日、ワールズエンド・スーパーノヴァ

 

 

家に帰ってきてから、クーラーもつけずに少し、眠ってしまっていた。

高校生の頃に見た夢を、ひさしぶりに見た。

わたしはその最初の風景をみた時に

「あ、この感じ知ってる」と思った。

あまりにもきれいな夢だったから、わたしはそれをノートに残していて

これまたひさしぶりに、それにも目を通した。

 

それは、こんなふうだ。

 

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そこは金平糖の雨の降る朝。 

時折、吹く風は ゆるい南風で 

それにのってきたらしい噂を、右の耳できいた。 

マヤの人たちが生贄の儀礼を再び始めたので、 

西欧の人々の空とも海とも云えぬ、あの あおい目が 

あかく、あかあく 染まっていくのだ、と。 

 

 

金平糖は金色で、その向こうには

気難しいみどりのレインコートを小脇に抱えた人がいる。 

(彼なのか彼女なのかはわからない。)

 

 

「雨が降っています! 」

そのレインコートを着てください。

ねえ、お願い早く。

あおもみどりもぜんぶあかになっちゃう、と泣き叫ぶあたし。 

 

メキシコやグァテマラの大使館に儀礼の事実を確かめるための 

タウンページを右手に持つだけで自分はレインコートなど持ち合わせていない。 

どんどん、金平糖が溶けて、その人は魚になりかけている。 

 

 

たぶんなにか、あたしとその人の間には

すごい大切な 約束事があった。はず。 

 

 

 

あたしはそのとき、なぜか鯛の塩焼きが

気が狂ったみたいに食べたくて仕方がなくって 

でもその人は グッピーになりかけていた。 

西欧人の目のあおと  

熱帯雨林の秘めたみどりと  

流れる血のあかの。 

 

 

「いやだいやだいやだ!」 

号泣しながら、器用に片手で持った 

フォークと菜箸をふりかざすあたし。 

右手にはタウンページ。 

 

 

なにもかも忘れて鯛の塩焼きのことばかり考えて、

グッピーになっていくその人(もうほとんど魚)に 

なんで鯛ちゃうのよ、とわめき散らす。 

 

 

もう大切な約束事なんてなにかも思い出せない。 

というより、

その人にレインコートを。

あの中米の奥地の鰐のように 

ぬっとりと潜む翡翠のように

きれいなみどりを泣いて、泣いてまでも 

身に纏って欲しかったことすら忘れていて、 

もう とりあえず鯛の塩焼きのことしか 

考えられなくなっていた。 

 

 

「あたしは鯛を食べるために生まれてきたのに!」

 

 

叫ぶだけ叫んだのだけど意味がわからない。 

 

 

だいぶと西欧人の目があかくなったのだろう。 

その血のような真っ赤から、

その人との共通点が「トマトジュースが苦手なこと」

というのを思い出した瞬間に、 

 

 

あたしが 鯛になった 。 

 

 

そして思い出す。 

というよりか 

ほとんど 閃きに近かった。 

 

 

「会いたかった。」

あたしはその人にとても会いたかった。  

そしてたぶん、その人とのとても大事な約束はこれだった。

 

 

その人は結局、グッピーになってしまった 。

あたしは鯛のままで、結局いつまで経っても 

淡水魚のグッピーであるその人と、

海水魚の鯛であるあたしは出会えなかった。 

 

 

 

きれいな夢なんだけど

約束は果たされないままで、わたしは悲しい。

わたしはまだ、「あたし」だった。

結末を知ってたから、その人とどこかしらで

会えるようにしたかったけれど、ダメだったー。

これほど鮮明に覚えてる夢ってめずらしい。

かなしいんだけど、また見れたらいいなあ。

 

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さいきんのわたし。

そこそこ忙しくて、そこそこ元気で、そこそこ体重増えてる。

 

このあいだ授業で、マイケル・サンデル

『これからの正義の話をしよう』の内容をちょこっとだけやって、

そういえば持ってるけど読まないまま置いてあるや

ということを思い出し、2日くらいかけてその本を読んでいた。

 

「どうして人を殺してはいけないのか。」

 

問いに答えられない自分に愕然とした。

そればっか頭の隅っこにちょこんと居て、答えは出ないまま。

考えているようで、わたしの頭の中はきっと空っぽだ。

きっと答えは出ないんじゃないか、と思っている。

 

それだけなら幾らかよかった。

目をつむって、耳を塞いで、やり過ごせたかもしれない。

けれどわたしは、たった今この瞬間、

粒ほどの物音もたてずに、じいと鏡越しに自分の顔を見つめている。

「どうして人は生きなきゃいけないの。」

 

自明なことが自明でなくなってきて

わたしは今きっと、崩れかかってる。

他者や世界に向いていたものがひるがえって自分に向かってくる。

まるで返り血を浴びてるみたいに。

そして、はたと気がついてみるとそれ自体で、

自明なものごとなど世界にはないんじゃないかと思えてくる。

遠くで何かがガラガラと鳴っている。

 

「もうこれ以上はよそう」と「まだ潜れそうだな」が

血液の流れを支配してしまっているような感じがしてすこうし危うい感じが、する。

きっと答えは出ないし、この先にあるのは絶望かもしれないなと脆い輪郭が予感してる。

 

絶望の果てに希望を見つけたろ、と歌った人のようにわたしは強くなれそうかい。

いくとこまでいっちゃって、研ぎ澄まされたらホントウノコトに出会えるのかなあ。

 

 

それにしても、わたしのきれいな夢はかなしかった。

(かなしい夢はきれい、って話もきくけど。)