12月22日、owari no kisetsu
目の前には譲れないものだらけよ、といった感じの女性が座っている。
グレーの雨に弱そうなブーツ。
食べたことのないほど大きな葡萄のような粒の揃ったブレスレット。
宇宙色のまあるいブレスレット。
ゴールドのトートバッグは世界一薄い金箔を貼り付けたようなしなやかな輝きで。
手は上下に重ねられている。祈るように、ではない。
恋人と繋いだ感じを忘れたくないのと言わんばかりに。
電車がやはり苦手です。
わたしは、この感じになまえをつけることができそうにない。できない。
つむっていた目をそうっとあけて
ずるり、だらり、と這い出るように電車を降りた。
ほんとうに体と心が引き剥がされそうなときは思うように動かないからやり過ごすしかないようでいて、
ほうとうに体と心が引き剥がされそうなときに永遠に届きそうにない出口に体を向かわせる。
あんなに速いものに私たちが順応することをおもうと少しぞうっとする。
そして体と心は両方わたしなのに、両方わたしのものではないような気がする。
そう。わたしのものではないのかもしれない。
呼吸が凪いでくのがわかる。穏やか、ではなく止まっていく。圧迫される。
吸わなきゃ、吐かなきゃとおもうほどに
それはスピイドという名の重力、暴力に押し黙らされる。
バニラフレーバーの煙草を買った。
たっぷりと香りを吸って袋の外まで漏れてくる匂いをあれこれと試して
わたしではなく、恋人が好みと言ったものを。
スパイシーで癖のあるやつではなく、百貨店のフルーツショップに置いてありそうな上品なやつ。
そのようにして選択してゆくことは、ほとんどゆるく守られてゆくことに通じている。