tayutauao

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5月10日、東京

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しとしと、と雨が降っていた今日。

16時頃まで寝たり起きたりを繰り返した今日。

枕元にはツルがひらきっぱなしのめがね

照明のリモコン

とうに充電の終わった携帯電話

飲みかけの水のはいったペットボトル

 

きのうは髪を乾かさずに寝たから

髪には変な癖がついている

やわらかに傷んだ髪

みじかく切ってからどれくらい時間が経ったのか

思い出せない伸ばしかけの髪

ふと、こういう姿を恋人に見せたいと思うが

彼はここにはいない。

ベッドにはわたしひとりだ。

 

ながいながい夢をみていた

起きてごはんを食べて

またベッドに戻り、同じ夢をみた

昔の恋人たちの夢

わたしの見ている空は青かったのに

その色は彼らの見ているそれとどれほど同じなのかを

知るのがこわかった、そんな夢。

今もだいすきな人たち。

わたし以外の誰かとしあわせになる人たち。

あの子にも、あの人にも、いつか会いたいなと思った。

 

ペットボトルの中の水はゆらりと揺れて、

壁の白を映し出していた。

このとろっとした水を飲んだら、

なんだか自分の存在まで薄まってしまいそうだった。

わたしの存在。

誰かが忘れて、誰かが思い出す存在。

忘れたことも忘れられてしまうのかもしれない。

思い出して、大切に胸のポケットにしまわれるのかもしれない。

どちらにせよ、なんにせよ、それはすこし寂しく、

そしてそれだけでこの頼りのない体がきゅんといとおしくなる。

わたしは、ごそごそと布団にくるまる。

そのようにあたたかく抱きすくめられたことを思い出して。

 

雨は止みました。

気の抜けたぬるいサイダーで飲み忘れていた薬を流し込んで

今日はじめての煙草を吸いました。

そういえばわたし、煙草をおいしいと思ったことがなかった。

「ただ、なんとなく」していることが多くなった。

ただ、なんとなく寝て

ただ、なんとなくごはんを食べて

ただ、なんとなく散歩にでかけ

ただ、なんとなく言葉を綴る

うまくいえないけれど、なんだ、うまくいっていないんだと

もう一度ただ、なんとなくサイダーで飲んだ薬を胃に押しやった。

でも、うまくいかないことなんて、よくあることなんだと思います。

そんな生もあるんだ、と

愛しているんだ、といえる自分だけが

今の自分を支えています。

 

前だけにすすむことだけがたいせつだろうか?

明日が見えないことはわるいこと?

つらい景色だけがひろがっているの?

それとも、なにもみえないのかしら?

 

なんだっていい

今、生きているのだからそれでいい

何度だって同じことを言わせてほしい

わたしはこの生を愛しています。