5月12日、Slight Slight
太陽がそろそろとてっぺんに昇るまでの間
そしてまた静かに濃紺へと変わりゆくまでの間
わたしたちはいつも、いつまでも、はじめてを生きる。
はじめまして太陽。はじめまして星。それはワンダー。
朝の光にさらされて
大気を揺らす風に驚かされて
寝ている間にすっかり丸まってしまった体を
くう、と伸ばして宇宙の一粒である体を幸福に思う
何気ないのなかを歩いていく。うれしい。
水をやらないと首をもたげてしまう花ばな
ちいさな水槽の中でゆうゆうと泳ぐ魚たち
浮き沈みの渦の中にたゆたっているわたし
どれもが朽ちていく、生きていくそんな存在。
それが、うれしい。地上にもある天国。
海に行きたいと思いました。
ああこれは恋だと思いました。
確かなものをみつけられる予感。うれしい。
+
サンドウィッチをつまむ指先。
カタカタと仕事をこなす指先。
たまにわたしのふとももに触れる指先。
いろんな指先を知った。
今日の全部がたからものだ。
そうっと体に眠らせておくことを決めた。
煙草の嫌いなその人ではあるものの
こんなに長居するのならばすすめられた喫煙席に
おとなしく座ればよかったと少し思いながら
本当は決意めいた気持ちでわざと煙草を持ってこなかったこと。
教えてあげたかった。
会えば覚えておこうと思うものだけれど
もう直ぐ来る夏の日差しでかんたんに溶けてしまうアイスクリームみたいに
話したことも、あの素敵な笑顔も、飲んだコーヒーの熱さも忘れてしまう。
それはきっとこれから始まるであろう日々が明るくて楽しみだからかもしれない。
瞬間、瞬間、まばたきのあいだを、ただただいとおしくおもった。
あいしてる、と3回唱えると誰のこともあいせてしまう
それがわたしの得意なことだったけれど、あなたには通用しなかった。
そんな隙間をあなたは与えてはくれなかった。
半分しか入っていないコップに、水が満ちていくようなこと。
喜びのようで、幸いのようで、切なさであり、寂しさだった。
どうでもよくないことはあったと思うけれど
どうでもいいことばかり話した。
ほうきでスミバキをするような正確さよりも
ゆるんで咲く花のそのタイミングのような自然さを大切にする。
明日のことよりも
今日のことばかりを選んでゆこう。
+
ひとりじめというのは、さびしいんだ
あなたを想うとき、そう感じる。
いびつな愛しかたかもしれないなあ。
でも、わたしだけの人になったら、さびしい
窓をガラガラと開ける力を携えていてほしい。
風に吹かれる自由を忘れないでいてほしい。
流れる時間の違いも、ゆるまりかたの違いも
本当のやさしい気持ちをもってゆるすことができそうで
これを恋と呼ぶのか愛と呼ぶのか
熱に浮くわたしにはまだわからない。
わからないけれど
何気ないもの、匂い立つもの、真新しいもの、懐かしいもの
あなたと見ていけたらいいのにと、こころが踊る。
恋はすてきだな。
恋することに勇敢でいたいな。
ましろのシーツに星みたく散りばめた写真を記憶と繋いで
ありがとうとおやすみなさいを同じ空の下にいるあなたに送ろう。
それぞれの布団に潜り込み、
それぞれの体温でそれをぬくめながら
猫背なわたしたちは穏やかな猫のようにゆったりと丸まろう。
うずくまるのではなく、そっと優しく空気を抱くようにして。
そしたらきっとすてきな朝がやってくる。
わたしたちはいつも、いつまでも、はじめてを生きる。
はじめまして太陽。はじめまして星。はじめましてあなた。それはワンダー。