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7月13日、夜に失くす

 

夜が来るのがこわいという感覚は久しぶりだった

それはきっとこれからやってくる季節があまりにも生々しいから。

立ちのぼってくる土の匂いとか、風に揺れる草の匂いがふんだんに混じった

湿度のこもった、さながら水みたいな空気が柔らかくわたしの喉を刺す。

 

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きみを間違えないようにそっとその名前を携帯で確かめるみたいなうしろめたさ

うしろめたさはいつも心の片隅にいて、そんなものがわたしを均している。

 

のぼってくる朝の光とともに煙草を何本か吸った。

きみはまだ真っ白で清潔な布団の中に潜り込んでいる

それはまるで未来を見ているかのようで

わたしには朝日よりもきみが眩しかった

 

撮ったものがきみを、わたしを、当たり前に肯定するから

愚かだとしても、それだけで生きていけるような気持ちになる。

ただしさとかまちがいを盾にして生きてはいけない体に生まれて

その愚かさが、切なく、甘いシロップみたいにそこかしこにしみわたる。

 

きみがうつくしいのは

世界がうつくしいのと同義だ

 

わたしが愚かなのは

世界が愚かなのとよく似ている

 

せめて、すべて許せますように、と

枕元の聖母に祈る朝。

 

 

 

 

 

 

 

7月7日、さよならミッドナイト

 

「どうして人は思いを伝えるんだろう」

「どうして人は思いを伝えないんだろう」

 

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日付が変わって今日は七夕らしいけれど

織姫も彦星も毎年雲の中で会う約束をしている

わたしはホッと笑みを浮かべる

恋人たちが会うのは夜の帳の中がいいし

ましてや年に1度のデートを見られるのはきっと嫌だから

 

彼はやってきた

細い体に不似合いな大きなリュックを背負って

その肩口を両手で支えながら

ひょうひょうと風をきるようにして

 

お久しぶりです、と遠慮がちにつぶやいた彼に

わたしはおかえりといい、彼に習って

ひょうひょうと歩くことにした。

煙草を1本もらって歩く。

気持ちのいい歩き方を知っているなと思った。

 

家は片付いておらず、しかしわたしの生活感は

彼に安心感を与えていると感じた。

お酒と睡眠剤を飲むのが癖になったわたしに

それっていいんですか、と聞く彼に苦笑いをして

わたしは歯磨きのために洗面所に向かう。

 

「僕、下で寝ますね」

「いいよ、うちのベッド広いから上で寝なよ」

「じゃあお邪魔します。ありがとう」

もぞもぞと布団に潜り込んできた彼は

普段は猫背で分からなかったけれど背が大きくて

きちんと男の子の体をしていた。

触りはしなくてもそんなことはわかった。

セミダブルのベッドは広く、

私たちは触れ合うことなく眠りにつくことができそうだったけれど

私の睡眠剤は効かず、彼はずっと音楽を流していた。

たんじゅんなメロディ、かんたんなメロディのその歌を

前に海にいった時の朝方にも彼は流していて

それは私も大好きな歌だった。

 

 

テーブルの上に 缶ビールとコンドーム

隣で眠ってる僕の恋人

僕は行くよって さよならミッドナイト

もうすぐ最後の夜が明ける

 

 

 

夜が更けていく。

いつの間にか距離が近くなった私たちは

やはり眠ることができなかった。

真夜中2時の煙草

真夜中3時のアイスクリーム

そういうなんでもないことが幸せだと感じた

音楽が流れている

外は涼しいけれど湿度が高く

水の中でそっと蓋をして生きる貝のような気持ちだった

 

 

目を覚ましたら 離れ離れさ

 

何も言えなかった 何も言わなかった

 

 

それはもう確信をついているようで

でもやわらかだった

 

伝える思いと伝えない思いがあって

けれどそんなことを口に出さずとも

伝わる何かもある

彼はわたしにそれを教えてくれる

その居心地の良さも、余白も、

そういう風にして編まれていく関係性も

わたしが彼を好ましく思うのはそういう理由だった

 

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いつの間にか朝になって私たちは寝坊した

急いで支度をして急ぎ足で彼を見送る

ありがとう、と手をひらひらさせて

彼はホームに吸い込まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

6月16日、ラストデイ

わたしの目の前にきみがいる。

きみは、あたりまえじゃんって笑うかもしれないけど

目の前にいるきみは、目の前にしかいない。

きみの存在のすぐ隣には、きみの不在が横たわる。

 

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世界を見渡してみる。

どうしたって、いつだって、

「きみがいること」と「きみがいないこと」は

切り離せないことなのだとおもう。

 

 

「余白」

 

 

きみ

せかい

わたし

 

繋ぐ「のりしろ」

 

 

目の前にきみがいること

それはそれ以外の空間に、

いつもきみがいないことを知る装置だ。

 

わたしってば、きみが在るよりも

きみのいない空間のほうが世界には

たくさんあるって知っている。

 

在ることだけが明らかだ。

ふれたら確かめることだ。

 

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なのにわたしときたら

目の前にいないきみを

たしかめるよりもずっと

余りにも信じすぎている。

 

 

 

 

6月15日、魔法の料理

きみの願いはちゃんと叶うよ

たのしみにしておくといい

これから出会う宝物は

宝物のままで古びていく

 

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パパのひざの温度は

もう忘れてしまったね、

 

あたたかかったこと

もちろん覚えてる

 

ママを見上げて

頭を洗ってもらった

目に入った泡の痛さも

忘れてしまったよ

 

ごめんね、というママの顔

もちろん覚えてる

 

 

 

パパとママのふとんのあいだに

わりこんで眠るのがすきだったのも

 

妹と二人、せまい2段ベッドに

寝転がってマンガを読んだのも

 

あったかかったんだ

 

 

 

おとなになったら

いろんなものを得るけれど

失ったわけじゃないけれど

もう味わえないものが

いくつもあるなあと思う。

 

 

あの日、ブランコから落ちたこと

おんぶしていた友達ごと転んだこと

2人乗りした自転車は田んぼに落ちたこと

 

寒い日、おうちに帰ると

冬の匂いがするから

その匂いの正体について

こたつの中で考えてた

その匂いは おいしそうな

夕飯の匂いに変わってた

 

あのしあわせな

匂いにつつまれて

 

包まれて包まれて

いつのまにか

ここまで歩いてきてたんだね

 

 

でもそれはなにも

失ったんじゃないからね。

 

失ったんじゃない

誰にも奪えないものだよ

 

だってそのぬくもりで

わたし育ったんだものね

 

消えるわけない

 

 

 

きみの願いはちゃんと叶うよ

たのしみにしておくといい

これから出会う宝物は

宝物のままで古びていく

 

 

 

 

6月14日、Tiny Tiny Tiny

 

 

 

糾弾し続ける、
憎悪 の 指。
背をこごめ、
逃げ去って行くのも、
ぼくの後ろ姿 。
あれ以来、
空飛ぶ夢も、
いっこうに楽しい
ものではなくなった 。


地球の
引力から
逃れても、
いずれ
泳ぎ続けるのは、
涙の海 。

 

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安部公房