1月22日、candy candy
「部屋のなかで煙草を吸ってるの」
「自分の部屋?」
「いいえ、リビングで。わたしの家はリビングで吸ってもいいから。」
「いいな、寒くなくて」
けれど、寒いベランダで吸う煙草は好きだ。
特に、夜中なんて最高だ。
訪れる真冬の白き静かな夜
「ぼくは、何かを信じるというのは、こういうことなのかなって思うんだけど」といった人のこと。
夏の部屋の窓は開いていて、オーダーメイドで買った遮光カーテンも引かれてはいなかった。
車が部屋の脇を通りすぎてく度に影が滑り込んでくる部屋を、気に入っていた。
夜風がびゅう、と吹き込んだ。
となりに住んでるお姉さんが扉を勢いよく閉めた。
思い出の中に住む人だけが、大きなあくびをした。
そんなあれこれを思い出しては空と自分の手を見比べるみたいに交互に見つめる。
それからベランダに腕をかけて俯瞰してくるだけの星をそうっとのぞき込む。
「朝方なんてもっと最高だよ」
朝方。
薄明。
うんと深い紺色から透き通った青に空が塗り替わる。
想像力をうんと巡らせてみる。
白んだ街の姿がおぼろげに浮かび上がる。
世界が朝を迎えるように、わたしたちも朝を迎える。
「高速のサービスエリアが最高。海の見えるサービスエリアがいい。」
みんなどこかへ行くために、目的地を目指して走る。
オレンジの光がみるみるうちに飛び去っていく。
わたしたちは煙草とコーヒーを飲むために走る。
オレンジの光がいつの間にかゆるむ。
わたしたちは愛し合っている。
わたしたちは愛し合っている。
朝方のサービスエリアで煙草を吸おう。なんて素敵なことをいう恋人だ。
それに、寒いベランダで煙草を吸うわたしもなんて素敵なんだろう。
思い出だって、ちょっと切なくてなんて素敵なんだろう。