tayutauao

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10月9日、P.S

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花に触れた指先がくすぐったい

部屋を渡って行く風があまりにも躊躇なくて

私はなんだか苔むしたようなそんな気持ちになる

 

 

名付けられた世界にあまり興味がない

あなたのここが好きです、とか伝えるのが下手くそなタイプ

興味があるのはその間にあるもので

だってそこには限りない宇宙が広がっていて

足掻いてニュアンスとか手触りを記録してくのが好き

 

いつも確かな手触りはあるんだな

それを言葉にできないだけで

 

 

傷つけたくない、と言われた夜があった

でも好きだから傷つくよ、と言った。

傷ついてたってへいちゃら、とも。

 

そんな優しいことを言うのは君ぐらいだと思った。

そんな愛おしくなることを言うのは君ぐらいだと思った。

気づいたらわたしの中、君ばっかりになっていた。

 

 

何を憎まずとも、過ぎ行く秋のように

愛している時間だけでも生きるのには短すぎるね

 

 

 

 

10月2日、幻

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こんばんは

挨拶をするって好きだな

あなたにセイ・ハロー

 

鈴虫がうるさいほどにもういいよってほどに

鳴いてた夜が明けてみたら朝がきている。

なんとかって花がこの季節のことを告げている。

 

「前髪が伸びたら会いに行くね」と約束をした

本当は前髪なんてすぐに伸びてしまうから

こんな約束に意味なんてないと思ったけれど

これがわたしの精一杯だった

 

ああ、ロミオ、ロミオ、

どうしてあなたはロミオなの。

お父様と縁を切り、その名を捨てて。

それが無理なら、

せめて私を愛すると誓って。

そうすれば、私はキャピュレットの

名を捨てましょう。

私の敵はあなたの名前。

モンタギューでなくても、

あなたはあなた。

モンタギューって何? 

手でもない、足でもない。

腕でも顔でも、人の

どんな部分でもない。

ああ、何か別の名前にして!

名前がなんだというの? 

バラと呼ばれるあの花は、

ほかの名前で呼ぼうとも、

甘い香りは変わらない。

だから、ロミオだって、

ロミオと呼ばなくても、

あの完璧なすばらしさを失いはしない。

ロミオ、その名を捨てて。

そんな名前はあなたじゃない。

名前を捨てて私をとって。

 

 

「月が綺麗ですね」と言ったのは君だった

「ずっと月は綺麗ですよ」と答えたのはわたしだった

 

 

 

 

9月22日、僕の宇宙

 

幾つかのことを思い出してみる、順不同に

ー両手の指から溢れるほどの桜の花弁

ーいい匂いのする香水のつけたての手首の内側

ーわたしじゃ物足りないといった男の子

ー窓際の虫をプツリと殺したつまらなかった英語の授業

ー終わりの感覚

 

生きることとは過去を思い出すことなのかもしれない。

わたしは過去を思い出して生きてきたからそう思うのかもしれない。

 

いつも派手な遊びの後ろには虚しさが隠れていて

わたしはそいつがとても恐ろしくもあり親密さも感じていた

 

もう戻れない青春時代というものが誰にでもあって

そのことがわたしをほんの少し柔らかくする

そう、もう戻れない場所ばかりが増えていくね

 

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思い立って真夜中の海に出かけた

海には恋のものがたりが必須だから

わざとカメラは持って行かなかった

 

土砂降りだった雨が止んで月明かりが辺りを照らした

はしゃぐ母親が少女のように見えた

潮風で髪がベトベトになった

足をつけた水がまだ暖かく夏の匂いを残していた

それだけで十分すぎる夜だった

それだけで美しすぎる夜だった

 

いつも派手な遊びの後ろには虚しさが隠れていて

その夜わたしはそいつに切なさとしか言えないものを感じていた

 

 

photo by R

 

 

 

 

 

9月15日、フィラメント

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季節のはなしから始めようにも

今は春ではないし夏ではないし冬ではないし

秋なのだけれどそうとも言い切れない。

この中途半端な季節にもきっと名前が付いていて

でもそんなこと知らずともスキップして生きていける

私たちはとてもかわいい。

 

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今日も煙草はおいしくない。

おいしくないのに手放せないなんて

こんな理不尽があっていいのでしょうか。

でも後ろに生きている緑が美しくて

ああ、これを見るために止められないのかもしれない

そんなことを思いました。

 

「ここへやってきてくれたあなたに、

 この瞬間、わたしはとても正直だとおもいます。」

 

いきなりですが、瑣末な自分のことを考えてみます。

いきなりなようでいきなりでないのですが。

「後ろに生きている緑が美しい」ことが

わたしをそうさせるのです。

世界は今日もキラキラときれいです。

 

さて、じいっと自分の足元を見てみる。

わたしの見えている範囲なんて

ちいさな自分の足

薄汚れて擦り切れそうな黄色い点字ブロック

隣に並ぶサラリーマンのくたびれた革靴

たったそれだけです

 

一体、わたしの心は何に大きく反応し、何にうまく反応できないのか。

 

わたしの見えないところの世界で、あの子は涙を流しているかもしれない。

わたしの見えないところの世界で、ロケットが宇宙へと飛び出していったのかもしれない。

わたしの見えないところの世界ではあまりに哀しく凶暴な戦争が行われ、

今もたくさんの人が死に続けています。

 

わたしは飛び越えることができないのだろうか。

わたしは向き合うことができないのだろうか。

わたしは本を閉じきることができないのだろうか。

 

In dreams begin the responsibilities

わたしたちの責任は想像力の中から始まる

 

 

もう一度、わたしは自分の足元をじいっと見つめる。

 

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ここへやってきてくれたあなたに、

この瞬間、わたしはとても正直だとおもいます。